コラム
生活機能向上連携加算とは?「自立支援・重度化防止」を目的とした意義ある加算
生活機能向上連携加算とは、リハビリ専門職や医師が介護施設・事業所へ訪問し、リハ職と施設が共同で入居者さんのアセスメントを行い、介護計画等を作成することで算定できる加算です。リハビリ専門職の知見や経験を計画に活かせるので、より質の高い計画が作成できます。
専門職の知見をケアに活かすことで「自立支援・重度化防止」につなげることが目的の加算となっています。
本記事では、生活機能向上連携加算について取り上げたいと思います。
生活機能向上連携加算の算定要件
生活機能向上連携加算は、さまざまなサービスで算定が可能です。リハ職との連携、機能訓練計画作成・実施がポイントになります。
対象サービス
以下が算定対象となるサービスです。幅広いサービスで算定ができます。
生活機能向上連携加算が算定できるサービス
- 訪問介護
- 通所介護
- 短期入所生活介護
- 特定施設入居者生活介護
- 介護老人福祉施設
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
- 地域密着型通所介護
- 認知症対応型通所介護
- 小規模多機能型居宅介護
- 認知症対応型共同生活介護
- 地域密着型特定施設入居者生活介護
- 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
生活機能向上連携加算(Ⅱ)の算定要件(グループホームの場合)
当院では、高齢者グループホーム(認知症対応型共同生活介護)で生活機能向上連携加算(Ⅱ)算定のサポートをしています。算定までの流れと単位数を確認してみましょう。
算定までの流れ
- 当院のリハビリ専門職がホームへお伺いし、共同で機能訓練計画を作成します。
- 共同で作成した計画に基づき、ホーム職員様が個別機能訓練を実施していただきます。
- 3ヵ月毎に進捗状況を当院リハビリ専門職と評価し、必要に応じて内容を見直します。
単位数
200単位/月
施設様側で算定します。外部の医療機関等と連携して加算算定をする場合には、連携機関と契約を締結し委託料を施設様側が支払うことが一般的です。外部連携先として、訪問看護ステーションのPT・OT・STは対象外となるので注意が必要です。また、自治体により、算定のための届出が必要な場合があります。
生活機能向上連携加算の算定状況
算定率
生活機能向上連携加算の算定状況はどうなっているのでしょうか。厚労省が介護保険総合データベースのデータを用いて分析した結果があります。
全体の算定率は3.1%。一番算定率が高い認知症対応型共同生活介護(高齢者グループホーム)でも7.6%となっています。まだまだ算定がされていない加算と言えそうです。
※介護サービスにおける機能訓練の状況等に係る調査研究一式より作成
生活機能向上連携加算を算定を阻害する要因
なぜ算定率が低いのか、その理由を探ってみます。厚労省が行った「平成30年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(令和元年度調査)」のデータをみてみましょう。
平成30年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(令和元年度調査)をもとに作成
このデータは高齢者グループホームのものになりますが、加算を算定しない主な理由としては、以下が挙げられます。
- 利用者・家族の理解が得られないため(44.2%)
- 加算の算定に取り組む余裕がないため(38.9%)
- 加算の算定に必要な要件がわからないため(35.8%)
- 事業所・施設が人手不足の状況にあり、 利用者の生活の維持に注力すること以外の ことを行う余裕がないため(30.0%)
以上より、大きく2つの要素に分解できると考えられます。
事業所に余裕がないために取り組むことができない
「加算の算定に取り組む余裕がないため」「事業所・施設が人手不足の状況にあり、 利用者の生活の維持に注力すること以外の ことを行う余裕がないため」という項目が上位に上がっている通り、事業所の人員配置等がギリギリなため、計画作成やその実施に時間を割くことができず、算定ができないということがありそうです。
そもそも生活機能向上連携加算のことがよく分からない
「加算の算定に必要な要件がわからないため」という項目からそもそも加算の詳細がよく分からないという事業所も一定数あることが想像できます。加算の詳細がよく分からないために、ご利用者さまやご家族に説明できず、「利用者・家族の理解が得られないため」という項目につながるのであろうと考えられます。
生活機能向上連携加算を算定するためには、まずは加算の詳細を理解し、そして事業所として余裕のある運営ができる状態に持っていくことがポイントになりそうです。
生活機能向上連携加算のメリット
算定率がまだまだ低い生活機能向上連携加算ですが、算定することの効果・メリットが大きい加算でもあります。具体的にどのようなメリットが期待できるか、「ご本人・ご家族」「事業所」の視点で整理してみました。
ご本人・ご家族に対するメリット
- リハ専門職のアドバイスにもとづく訓練をすることで身体機能の維持向上
- リハ専門職が携わることによる安心感
- 重度化の防止
事業所に対するメリット
- 専門的な視点を踏まえた機能訓練の作成が可能
- リハビリ専門職のアドバイスをもらえる安心感
- スタッフの教育・ケアの質向上
- 事業所として提供できるケアの幅の拡大
- 入居者の状態や希望に応じたケアの機会の拡大
メリットについて、具体的な調査結果があるのでみてみましょう。ここでは、高齢者グループホーム(認知症対応型共同生活介護)の調査結果について取り上げます。
平成30年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(令和元年度調査)をもとに作成
さまざまな理由で算定率がまだまだ低い生活機能向上連携加算ですが、算定することによるメリットも大きい加算であると言えそうです。
木の香往診クリニックでの事例
木の香往診クリニックでは、生活機能向上連携加算の連携実績があります。複数の高齢者グループホーム様と連携させていただき、当院のリハビリ職が入居者様の状態をみながら、機能訓練のアドバイスをしています。動画撮影などを活用し、スタッフ様全員がケアの手法をわかりやすくご理解いただけるような工夫もしています。具体的な事例をご紹介します。
事例1 体操・歩行の介助法のアドバイスにより介助量が軽減
パーキンソン症状により歩⾏の介助量が増大。トイレに間に合わないなどの問題が⽣じていた方です。内服薬の調整と並⾏し、⾜の振り出しが半⾃動的に促されるような体操・歩⾏の介助法をアドバイスしました。すべてのスタッフさんが同じように介助できるように動画を撮影し、施設内で共有してもらうようにしました。結果、「歩⾏介助量が軽減→⽇常⽣活での歩⾏量増加し下肢筋⼒が向上→介助量が軽減」というよい循環につながっています。
事例2 リハの目的をスタッフさんが理解することで、より質の高いケアを提供できるように
ご家族からの年賀状を常に持ち歩いている⽅に⾯談を⾏なったところ、本⼈の⾃尊⼼が家族とのつながりにより⽀えられていることが判明。認知機能を維持し、家族の⼀員としての意識をより⾼める⽬的で、介護スタッフさんの⽀援のもとでご家族へ暑中⾒舞いを書くことを提案しました。結果、本人の自尊心が向上し、活気が得られるようになりました。定期的にご家族へ⼿紙を書く習慣へとつながっています。
この他にも、誤嚥性肺炎から退院された方に対してSTが嚥下の評価や食形態のアドバイスをしたり、手首を骨折した方に対してPT/OTがギブスをしたままでできる機能訓練のアドバイスをしたり等の事例があります。
まとめ
生活機能向上連携加算は、リハビリ専門職の知見や経験を計画に活かせるので、より質の高い計画につなげることができるというメリットがあります。一方で現場スタッフ様の負担につながる可能性があり、それが算定の障壁になっているということでもありました。
当院では、複数の高齢者グループホームさんと連携し、生活機能向上連携加算の算定のサポートを行っています。利用者様のQOL向上とスタッフ様の負担増のバランスをうまく取れるように、日々施設様と協働しながら模索しているところです。
もし、生活機能向上連携加算に興味がある施設様はぜひお問い合わせください。