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多様化する在宅医療、欠かせない存在となる医療ソーシャルワーカー(MSW)の役割

多様化する在宅医療、欠かせない存在となる医療ソーシャルワーカー(MSW)の役割

こんにちは。医療相談室室長の鈴木秀季です。木の香往診クリニックには医療ソーシャルワーカーが勤務しており、患者様やご家族をさまざまなかたちでサポートしています。しかし、医療ソーシャルワーカーが実際にどのようなことをしているのかや、どんなときに頼ればいいのかなど、具体的にイメージできない方も多いのではないでしょうか。

医療ソーシャルワーカーが在宅医療でどのような役割を果たしているのか、どのように患者さんやご家族の皆さんと接しているのか、そして患者さんに在宅医療を提供するにあたり、私たちが考えていることについてお伝えします。

 

多様な問題に対応!在宅医療クリニックにおける医療ソーシャルワーカーの役割とは

入院の設備がある病院では医療ソーシャルワーカーが配置されていますが、在宅医療を行うクリニックではまだそれほど多くありません。とは言ってもここ10年ほどで在宅医療クリニックが増えてきたこともあり、年々医療ソーシャルワーカーがいる在宅医療クリニックも増えています。

在宅医療分野においての医療ソーシャルワーカーの歴史が浅いものですから、在宅医療クリニックに配置された医療ソーシャルワーカーは、「いったい何をしたらいいのか」「どういうことをしたらいいのか」と悩むことが少なくありません。

そこで、在宅医療に従事する医療ソーシャルワーカーの業務形態や内容を作り上げていくことを目的とし、2016年に「愛知県在宅医療ソーシャルワーク研究会」を立ち上げました。2020年1月時点で44名の会員がいます。

研究会では、実際に現場で働く医療ソーシャルワーカーさんが出席し、「こういうことをやっているよ」という情報交換を行い、どのように在宅医療機関で働く医療ソーシャルワーカーのパフォーマンスを上げていくかを話し合っています。

在宅医療における医療ソーシャルワーカーの役割としては、大きく3つあると考えています。

  1. 療養中の患者さんやご家族の心理的・社会的問題の解決支援
  2. 在宅移行の調整および移行後の生活支援
  3. 患者さんや家族の経済的問題(医療費や生活費など)の解決支援

医療ソーシャルワーカーは、在宅療養する上で、発生するさまざまな問題に対して、支援・援助する役割を担っています。特に在宅医療は生活を支えていく医療なので、医療上の問題だけではない、多様な問題が発生します。それに対して、我々、医療ソーシャルワーカーは一つ一つ対応していきます。

 

存在感を増す医療ソーシャルワーカー!クリニックにとってのメリットとは

医療ソーシャルワーカーがいることのメリットの一つは、診療を効率化できることです。患者さんの療養上の生活問題など、診療以外の部分を医療ソーシャルワーカーが受け持ちサポートするため、医師は診療に集中することができます。チームでうまく役割分担ができるので、診療の効率化につながるのです。これは病院でも在宅医療クリニックでも変わりません。

私は以前、病院の医療ソーシャルワーカーとして勤務しておりました。そして、病院から在宅に援助する場を変えました。病院に勤務していた当時は医療ソーシャルワーカーの仕事は点数化されておらず、医療ソーシャルワーカーの能力は病院の売上に直結しませんでした。

しかし、最近になって医療ソーシャルワーカーの配置が推奨され、具体的に診療報酬にも社会福祉士(医療ソーシャルワーカー)が点数化され、より分かりやすいかたちで評価されるようになってきました。医療の現場における医療ソーシャルワーカーの重要性に国も気づき、存在意義を認めるようになった結果ではないでしょうか。

 

患者さんが「自分で決定する」ことを重視し、家族を含めてサポート

私が、医療ソーシャルワーカーとして、仕事をする上でずっと大切にしていることがあります。それは、患者さん自身に「自分で決定してもらう(自己決定)」です。

よく登山の遭難に例えるのですが、山で遭難した人がいたとします。もし、私がその人を背負って下山してしまうと、その時はよいかもしれませんが、また同じ問題が起きたとき、同じように悩んでしまいます。結局、問題が解決していないのです。
ですから、その人を背負って下山するのではなく、その人の能力に合った下山ルートをいくつか提示し、その人の持っている能力で下山できるようにアプローチするのです。「どの道で行きたいか」を自分で決めてもらうことが大切だと考えています。

また、在宅医療は患者さんとだけではなく、家族とも関わります。家族みんなで決定し、家族を含めたトータルでのサポートをすることが大事だと考えています。患者さんを含めた家族全員で「決められる」のがベストですが、当然「決められない」場合もあります。決められない時には、その要因があるので、何が問題なのかをできるかぎり掘り下げます。

ただ、現実問題として家族の疲弊具合も含め時間の制限があるため、いつも100%掘り下げられるわけではありません。家族の状態を見つつ、どうにもならないときは、「とりあえず、こうしましょうか」と提案することもあります。極力、決めてもらうことを大事にしますが、状況に応じてこちらから提案し、決定を促すことも必要だと考えています。

 

病気をきっかけに出てきた多様な問題を解決!医療ソーシャルワーカーが評価されつつある

病気になってしまうと、それをきっかけにさまざまな問題が発生します。病気は体の問題だけだと思いがちですが、そうではありません。経済的影響も出てきますし、介護負担の増加など、問題が一気に噴出します。
特に在宅医療は、生活を支える医療なので、そのような問題に密接に関わっています。在宅診療クリニックの医療ソーシャルワーカーには、これらの経済的な問題や介護の問題などの諸問題を解決支援をしていくことが強く求められます。

また、問題も多様化してきています。昔は、どの家庭もおじいちゃんおばあちゃんがいて、子ども夫婦と孫がいて、と同じような家族構成でした。しかし現在は家族構成も変わり、あらゆる面が多様化しています。保証人問題や、どの人がキーパーソン(中心になって患者さんをサポートする人)になるのかという面が問題になることが多いです。

例えば、保証人問題であれば、身元保証をしてくれるNPO法人をご紹介するようにします。問題解決のために必要な社会資源を広く把握し、対応をしています。まさに医療ソーシャルワーカーの力量が試される時代と言えるかもしません。

また、訪問看護師さんやヘルパーさんなど、在宅療養する患者さんを支援する人はたくさんいます。その中で、医療ソーシャルワーカーは「今、どこの部分が支援の中でうまくいっていないのか」という問題に介入し、きれいな支援ができるように整える調整機能も担っています。そのためにはその場その場に合わせた柔軟なポジショニングを探し、臨機応変に対応することが大事です。

患者さんやご家族は、在宅医療でどういうことができるのかを知らない人がほとんどです。言ってみれば、「在宅療養の初心者」です。そんな患者さんやご家族に寄り添いながら、患者さんの心身の状態や望まれていること、課題などを把握していきます。そして、医師、看護師、ケアマネージャー、介護職などの多職種のチームの潤滑油として全体を調整していきます。患者さんやご家族が安心して在宅医療が受けられ、望んだ療養生活が送れるようになるために、医療ソーシャルワーカーは重要な役割を担っているのです。

 

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この記事を書いた人

鈴木秀季

木の香往診クリニック 医療相談室室長
社会福祉士

大切な人を少しでも支援できるようになれたらと思い、医療福祉の世界へ。もともとは旅行会社の営業&添乗をやっていました。
「自身が関わることのできる方々への支援を丁寧に行っていく。」という初心を忘れずに、在宅医療現場でがんばっています。

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