現場で使える知識
高齢者が発症しやすい「フレイル」って?
今回は、高齢者のケアにおいて気にかけておきたい「フレイル」について解説します。高齢者の方が生活機能を維持していく上で重要ですので、在宅医療ケアを行うスタッフや家族の方に知っておいていただきたい概念です。
フレイルとは?基本概念とその影響
フレイルとは、英語で「虚弱」「脆弱」などを意味する「Frailty」が元となった概念です。「老化に伴う種々の機能低下(予備能力の低下)を基盤とし、様々な健康障害に対する脆弱性が増加している状態、すなわち健康障害に陥りやすい状態」を指します。これは、日本において「老衰」という言葉で表されてきた状態に近い概念であり、身体的側面における衰えのみならず、精神・心理的、社会的側面についてのニュアンスも含みます。
このフレイルは「要介護状態」に至る前段階の状態として捉えられ、この段階から介入し対策を行うことで、健常な状態に戻る可能性が高くなると言われています。後期高齢者(75歳以上の高齢者)が要介護状態に陥る原因としては、疾患よりも高齢による衰弱に起因する割合が高いことが指摘されており、高齢者の生活水準の維持や健康上のリスク管理を行っていく上で、フレイル状態に対する意識は重要なものと言えます。
フレイルの基準と症状
フレイルの状態にあると判断する基準としては、Friedらが定義した5項目によるものが代表的です。
その5項目とは以下となります。
- 体重減少
- 主観的疲労感(疲れやすいという感覚)
- 日常生活活動量の減少
- 身体能力(歩行速度)の減弱
- 筋力(握力)の低下
このうち3項目以上に該当するとフレイル、1または2項目だけの場合にはフレイル前段階にあると定義しています。体重や筋力などの数値で把握できる身体的な変化のみならず、気力の低下等に起因する精神的・社会的な変化も含まれることから、見守り役となるケアスタッフやご家族は、これらの基準に意識を向けながら日々のケアを行うことが重要です。
フレイルの状態になると、身体能力の低下が生じ、病気にかかりやすくなる、重篤化しやすくなるなど、ストレスに弱い状況に陥ります。例えば風邪をひいた場合に症状が悪化してしまったり、体調不良による転倒から打撲や骨折といった怪我につながり、寝たきり状態にまでなってしまったりすることもあります。ケアを行っている側が高齢者の状態を早期に把握し、対策をとっていくことが求められます。
フレイルの症状が見られた時は?悪化を防ぐために
平成27年度厚生労働科学研究特別研究報告書「後期高齢者の保険事業のあり方に関する研究」では、フレイルについて、「加齢とともに、心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱化が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」と定義されています。
一般的に、高齢者における衰弱や筋力の低下、活動性の低下、認知機能の低下などは不可逆的なものという認識がなされがちですが、フレイルの段階は、この定義にある通り「適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態」であるとされています。ケアを行う側が、フレイルの状態にあることを早期に認知し、適切な介入を行うことが求められます。
では、フレイルの介入には、どのような方法が考えられるでしょうか。主なものとしては、1)持病のコントロール、2)運動療法・栄養療法、3)感染症予防などを挙げることが出来ます。
1)持病のコントロール
慢性疾患(糖尿病、高血圧、腎臓病等)がある場合には、持病のコントロールを行うことが急務です。持病の症状によりフレイルの状態がより悪化したり、高齢者本人のフレイル改善への気力が失われてしまう恐れもあります。まずは最優先で、持病との向き合い方を考えましょう。
2)運動療法・栄養療法
高齢者であっても、適切な運動療法によって筋力の維持が図られることが明らかになっています。筋力が低下した状態での無理な運動は危険であり、個人の状態に合わせた運動強度を調節しながら行うことが重要です。また、筋力の維持・強化のためには栄養療法と併せた形での指導を行うことが必要です。良質なタンパク質の摂取などに配慮した栄養療法(食事指導)を並行して行いましょう。
3)感染症予防
高齢になると免疫力の低下が顕著になり、インフルエンザや肺炎等が重症化して寝たきりや入院へとつながってしまう場合があります。運動や食事に配慮することで免疫力の維持に努めるとともに、ワクチン接種による予防の徹底を図ることも予防策として効果的です。
まとめ
フレイルの概念は、高齢者医療・介護現場において重要です。この記事を参考に、フレイルを知っていただく契機としていただけたらと思います。