現場で使える知識
在宅糖尿病治療に対してケアスタッフが気を付けること
現在、食生活の欧米化というライフスタイルの変化により、多くの方が生活習慣を原因とする「2型糖尿病」を患っています。厚生労働省の調査によると、2017年には「糖尿病が強く疑われる者」は約1,000万人にも及んだそうです。また、超高齢化に伴い、在宅で糖尿病治療を受ける方も更に増えていくと予想されます。
糖尿病は、壮年期の方であれば内服や食事などで自己管理をしていくことは可能です。しかし、認知症や病気の進行が進んでいる患者さんの場合、在宅での治療では医療スタッフだけではなく多くの時間を共にするケアスタッフの働きも重要だと言えます。
そこで今回は、在宅での糖尿病治療においてケアスタッフの役割について紹介していきます。
1)意識レベルが低下する前兆を見逃さない
糖尿病を患う患者さんにとってまず気を付けないといけないのが「高血糖・低血糖状態(以下高低血糖状態)」による意識障害です。
糖尿病は血糖値が高くなる病気だと想像しがちですが、食事摂取状況やインスリン注射を含む薬物療法が不適切であった場合には低血糖状態になることもあります。
高低血糖状態が続くと、けいれんや昏睡などの意識障害が起き、場合によっては命が脅かされる事態となってしまいます。
そのため、ケアスタッフは常に患者さんの意識レベルを把握しておかなければなりません。
具体的な症状を紹介します。ぜひ参考にしてください。
- 高血糖状態:のどの著しい渇き(口渇)・全身の倦怠感・吐き気や下痢などの消化器症状が現れます。単に今日は体調が悪いだけだと思わず、これらの症状が現れた際には注意深く観察するようにしましょう。
- 低血糖状態:混乱・抑うつ状態・時間や場所がわからなくなる見当識障害などが現れます。認知症の症状と似ているため、認知症も患っている患者さんの場合だと区別が難しいかもしれません。前兆として冷や汗・空腹感・動悸などが出現することがあるため、これらの症状を考慮したうえで判断するようにしましょう。
2)食事量を観察する
普段の食事量も重要なポイントです。処方されている内服薬やインスリン注射は、患者さんが適切な食事をした場合の必要な量になります。体調の変化によって食事の量が大きく変化した際は、内服薬やインスリン量の調整が必要になるのです。
日ごろから患者さんの食事量を確認するように心がけ、もし普段の食事摂取量と大きく変化があった場合は必ず医療スタッフに報告するようにしましょう。
決してケアスタッフの自己判断で内服薬やインスリン量の増減を行ってはいけません。患者さんの更なる高低血糖状態を招く原因になります。
3)患者さんの眼の状態に注意する
糖尿病が悪化すると目に異常をきたす場合があります。糖尿病網膜症と言い、神経障害や腎障害と並ぶ糖尿病の三大合併症の一つです。
初期のうちは眼底出血という点状の出血が現れます。視力の低下はみられずほとんど自覚症状はありませんが、利用者さんが眼底出血の診断を受けている場合は要注意です。眼底出血はコントロールすれば改善しますが、悪化すると網膜剥離を起こし失明する危険性があります。
患者さんの発言にはよく耳を傾けましょう。「最近目が見えづらくなった」と訴えた場合は、できるだけ早く眼科を受診させて下さい。網膜症が進行し網膜剥離を起こす手前まできていることが考えられます。
糖尿病患者さんにとって目の悪化はとても身近な症状の一つです。ケアスタッフは常に気を配りましょう。
4)インスリン注射の正しい扱いができているか確認する
インスリン注射を実施するタイミングは、インスリン注射の種類によって異なります。「食直前に実施」「食事の30分前に実施」「1日の決められた時間に実施」。これら3つのパターンが主に存在します。
ケアスタッフは患者さんがどのタイミングで実施するのかを把握し、正しいタイミングで実施できているのかを日ごろから確認するようにしましょう。
また、インスリン注射の管理の仕方も重要です。直射日光が当たらない場所で管理ができているか、使用した針は自治体の原則に従って処分できているかをこまめに確認するようにしましょう。
患者さん自身で行うことが難しい場合、ご家族が実施することになります。ご家族から代わりに注射を頼まれることがあったとしても、必ず断ってください。
ケアスタッフが行うと医療行為違反になります。患者さんやそのご家族の実施が難しい場合は、医療スタッフに相談するようにしましょう。
まとめ
患者さんが糖尿病を悪化させないために、ケアスタッフができることは「患者さんを注意深く観察すること」です。患者さんをよく知っているケアスタッフだからこそ、異変に気づけることもあると思います。糖尿病は今後も増加すると予測される身近な病気です。理解を深め、しっかりと対応できるようにしておきたいですね。